誰もが持っている「自分を形成しているもの」
それをゲスト本人に5つ選んでいただき、
どういう人かを紐解いていきます。
6人目のゲストは似顔絵師の
「にがおえりんご」さんです。
暮らし人*グランドオープンの日、記念すべき日に
ひと×ひと学生メンバー+新社会人メンバー3人が
初めて彼らだけでインタビューを行いました。
インタビュー場所に選んだのはもちろん暮らし人!
緊張を隠せないながらも、今回はこの人にインタビューします、
仙台を拠点に似顔絵師として活躍されているりんごちゃん!
──今日はよろしくお願いします、では早速自己紹介をよろしくお願いします!
本名は伊藤小百合です。みんなに「りんご」って呼ばれています。
りんごと呼ばれ始めたきっかけは、東京で似顔絵の勉強していた時、先生達から「りんごちゃん」と呼ばれたことです。
青森出身ということと当時の自分の見た目からだと思います。(りんごのような髪色でした。)
──にがおえりんごを始めたきっかけを教えて下さい。
絵は小さい時から好きでした。3人兄弟で年が離れているので、一人で絵を描くことが多かったですね。
中学校の時は美術部に入ったんですが、賞とかをとるような天才型ではなくて、ただ純粋に絵を描くのが好きだったんですよね。
将来も絵を描きたいなとは思いつつ、絵の仕事といっても中学生の自分にとって「絵」で食べている職業は身近には無くて、
「漫画家」や「画家」という非現実的なものよりは、身近な美術の先生になれたらいいなってなんとなく夢描いてました。
──そこからどうやって似顔絵屋さんの道へ?
美術の勉強のために、高校はデザイン専攻を選択して、絵やデザインに関する基礎を学びました。
でも高校の途中で「好きな事だけど、上手い人はもっといる」現実を目の当たりにして、絵の仕事は半分諦めてましたね。
祖母を亡くした時から介護の仕事に興味があったので福祉の方に進学して就職しました。
介護福祉士になってからも、ARTやデザインとの関わりはあって、やっぱり絵の仕事がしたいなと思って。
似顔絵屋さんって接客のある「絵の仕事」なんですよね。
接客や人が好きな自分に最も向いている職業だなと思って。
東京で色々な似顔絵屋さんに描いてもらった時に、憧れた人がいてその人を目指して上京し、
カリカチュア(誇張するユーモアのあるイラスト)を勉強して、カリカチュアアーティストになりました。
今までも「似顔絵屋さん」というのは変わらずに、いろいろな職業の経験をしながらやってきました。
今後、自分がどんな風になっていくのかは、私自身も決めて無いので未知ですね(笑)
喜ばせたい、笑わせたい
笑いのパワーが自分自身の原動力
小さい頃から全然人見知りをしなくて、人を喜ばせるのがすごく好きだったんです。
似顔絵も同じきっかけで、笑ってほしくてやっています。
似顔絵師って描いてる時にあまり喋らない人が多い印象がありました。でも私の好きな似顔絵師さんがすごく喋る人で。
私も人と喋るのが好きなので、似顔絵も喋りながら描きます。
似顔絵師は、絵もかけるし笑ってもらえるし喋れるし、だから楽しいです。
喜ばせたい、笑わせたいというのが自分の中ではすごく重要なことだと思っています。
接客の時に、その人とのつながりを探して、話して笑ってもらうというのを
私が一番大事にしてることなので、このワードとして選びました。
──似顔絵を描く上で大切にしていることなんですね。
初めて私の似顔絵のリピーター、ファンになってくれた人がお笑い芸人でした。
浅草に駆け出しの若手芸人の出る舞台があるんですが、そこの芸人さんたちの宣伝用の似顔絵を描いてたんですね。
描いてる間、私がボケて芸人さんがツッコミ役。その後も下北沢にできた若手芸人さんの舞台でも似顔絵を頼んでくれて。
みなさん「こんなに盛り上がって描いてもらったことない」って言ってくれて、ありがたいことに今でも繋がりがあります。
──人を笑わせることが、自身の楽しみでもあるんですね。
基本的に、誰かがいるということが大事で、人がいない仕事はしないと思っています。
目の前のお客さんの反応が見たいから、メールで似顔絵の注文を受けても直接渡したりとか。
似顔絵を渡す瞬間って、めっちゃ楽しくて最高なの!!
描いてる途中は見せずに、最後にバン!って見せた時に笑いが起きると鳥肌が立つんですよね。
だから絵を描くのはパフォーマンス・エンターテインメントだと思ってます。
描いてる時、横を通り過ぎる人とか後ろの人にわざと見せてます。
後ろから見てる人はお客さんも絵も見えますよね?そうするとお客さん同士が他人なのに会話するんです。
「似てますか?」「めっちゃ似てます」とか。その絵を渡した時の風景が何重にも広がって繋がっていくのがとても楽しい。
笑いの力って、プラスのパワー。他の仕事を選ぶ時にも大事にしてます。
──人を笑わせるのが好きなのは、家族みなさんもそうなんですか?
あ~そうかもしれない!
父も母も喜ばせることが好きで、すごく笑ってる家族だと思います。特に母親は、自分の人生にとても影響を与えてる人。
記念日でもなんでも無い日にもプレゼントをするのがとても大好きな人だし、たくさんの人がいる場でも明るく目立つ人で、
生粋のパフォーマーなのかも!それを見ていると、私も母も同じなのかなと思いますね。
絵を描くときには
必ず先に人がいる
1つめのワードでも少し話したのですが、人がとにかく好きなんだと思いますね。
私が絵を描く時に必ず人がいます。風景の絵を描いたときも必ず人がいます。
人のいないものを描いたとしても、それをもらって喜ぶ人を想像して描いてます。必ずその奥には人の存在があるんです。
デッサン会で水族館に行った時、普通は魚を描きますよね。
でも私は魚を見てる人を描いてました。可愛いおばあちゃんとか。
注目してしまうのはやっぱり人なんです。魚に反応してる人を描く、
魚を見ててもこの魚あの人に似てるって思っちゃったりして(笑)
──人がいつもいるんですね!
いつも気づいたら人を描いてますね。”対ひと”を大事にしてます。
アーティストは、自分を表現する人だと思っています。でも私は自分を表現するのがとても苦手。
誰かがいて、その誰かを表現してあげることの方がすごく得意なんですよね。
人と人を繋げるのものすごく好きですし。人と人を繋げて、それを広げて、結んでいくのが好きなんですね。
それをきっかけに仕事をもらったりもしました。人がいなかったら私は絵を描いてないですね。
だからとても大事なものかな。仕事は喜ぶ人のためにやっています。
色々な仕事をする上でも「人」は大切で、人の評価を気にすることは良くないとよく言いますが、私は違うと考えています。
人に評価してもらうことこそ、私が見つけられない部分を見つけてくれるから、人の意見をしっかりと聞くようにしてます。
環境より人が大事だと思っています。この人たちと一緒に働きたいなって思った人たちとは長く続きますね。
──人を嫌いになる、という経験はなかったんですか?
どうなんでしょう…正直、人付き合いが嫌なときもありました。
高校生の時に、仲間外れになったことがあったので。
傷つけられた経験もあるから、人を傷つけたくないなって思います。
正義の味方ってわけではないですけど、自分の心が動く方向に行きたいですし、人を助けるということをすごく大事にしていきたいです。
介護福祉士をやっていた経験もあって、困っていることに先に気づくことも多いですね。
ホスピタリティーの精神というか、助けてあげたい、役に立ちたいっていうのが強いと思います。
音楽の力が自分を変えてくれた。
音楽と絵の共通点とは…?
音楽は、奏でるより聴く方が好きです。
初めて勤めた似顔絵屋さんを辞めて独立した時に、似顔絵屋さんとしてFUJI ROCKに出店したんです。確か2014年でした。
その時、音楽の力に気付きました。人を引き寄せたり、まとめる力ですね。
自分にはなかった部分を補ってくれるんだと思いました。
FUJI ROCKに出店した後から、音楽がある場所で出店することが多いです。
絵を描く時に音がすごく必要と思ったのはFUJI ROCKからですね。
私がうるさいから、そういう時に音楽で沈める効果もありますし。(笑)
私、実は絵を描く時にすごく緊張するんです。前の日に全然眠れないときもあって。
どんな人が来るんだろう、どんな絵が描けるんだろうっていう高揚感からくるんだと思います。
でも、音楽と出会ってから、自分のリズムをつかめるようになりました。ジンクスではないですけど、
これを聴いてから出かけよう、というのもあります。
私は自分を表現するアーティストではないから、自分を表現するために作る音楽のアーティストたちはとても尊敬します。
自分はできないからこそ、ですね。
──自身をコントロールするものでもあり、「にがおえりんご」としても重要なんですね。
雰囲気を作ってくれるものは音楽なんだなと思います。仕事をしてて感じるんですが、その音楽の雰囲気に合った人がそこに集まるんですね。
私には作れないものを用意してくれる媒体だと思います。
デザインって何?
デザインから学んだこと。
今もデザイナーの仕事はしています。デザインって、ものすごく広いんですよ。
「デザイン」やってますっていうと、服を作ってる人と思われることが多かったり。
「〇〇デザイナー」ってつく職業も多くなりましたし、今現代に一番多いのは「デザイナー」なんじゃないかなと思います。
私はわかりやすく伝えることがデザインだと思っています。
わかりづらいものを噛み砕いて心に伝えやすくすることかな。
似顔絵を描く時に第一印象で10分間で描いていくんですが、バーって描いていく時に書き足し過ぎてしまうことが多くて。
逆に第一印象から情報が増えるから似てない絵になってしまうことがありました。
デザインの仕事してからは、余白をうまく使えるようになりました。
わかりやすく、見やすくすることができるようになりましたね。
絵に余白や文字を入れたりする表現の力を入れられたのはデザインの仕事をしてからです。
高校生の時に「情報デザイン科」という学科だったんですが、ある一つのもの生み出すだけではなく、
それをどうやって噛み砕いて説明していくか、ということを勉強しました。
情報デザインで勉強したからこそ、自己プロデュースが上手だと思います。
似顔絵はその人の説明する設計図、説明書です。顔の外見の説明だけではないんです。
笑わない人は絶対笑顔で描かないです。第一印象にもよりますが、その人らしさ、その人の良さを伝えるための説明書だから。
場面場面でどういう風に伝えるか、上手に伝える方法をデザインに教えてもらいました。
──それが根本にあるんですね。
デザイナーとして働いたことで、幅が広がったと思います。
似顔絵だけ描いてたらあまり認識してもらえてなかったかもしれません。
人を表現することが多いから、それをどう上手に伝えるかを考えた時に、デザインってすごく大事だと思いました。
どうすればその人のためになるか、助けられるか、そういうホスピタリティーなデザインも好きです。
ユニバーサルデザインとかの本も好きで良く読みますし、ユニバーサルデザインに設計された文房具とかすぐ買います(笑)
そう思うと、デザインも誰かのために作るものですね。
デザインの仕事も元々は似顔絵のためにと思って始めたんです。
似顔絵の仕事で「SNSに使うアイコンをデータ(イラストレーターやフォトショップ)で描けないか」と依頼されたことがありました。
もうデザインの知識は乏しかったし、自分に足りないものも見えたのでもう一度デザインを学びたいなと思い、
ソーシャルゲームのキャラクターやアイコンを作る仕事に転職して、ほとんど1から必死に学びながら仕事をする毎日でした。
その中で出会ったデザイナーがとても尊敬できる人で。
その人に出会ってなかったらもっと早くにデザインの仕事は辞めたというくらい(笑)
デザインで創るの楽しさや、日常生活の中で「ART」や「デザイン」と触れ合うことの大切さ。
人間として成長できたのもその人のおかげだと思いますね。
着るだけで勇気をくれる!
ファッション=「?」
ファッションは好きですが、高校生の時はそんなにオシャレではなかったです(笑)
今はファッションは自己プロデュースなのかなと思ってます。
青森にいた時、「LINK」というグループに出会いました。
今はハンドメイド作家が自由に売り買いできるサイトもありますが、
そういうのが無い頃から若い作家たちが集まって、定期的にデパートで催事場を借りて販売会をしている集団で。
その中に歳の近い女の子が作ったブランドがあるんですが、私は、彼女の作るワンピースがすごく好きでした。
彼女の選んだ生地の色も、作る形もセンスが良くて可愛いんですよね。
他にはどこにも売ってないこの世界に1着だけの特別なワンピースという、ワクワクするテーマでいつも新作が楽しみでした。
彼女の洋服を買い始めた時から、出かけるのが楽しくなりましたね。
気持ちを上げてくれるもの、それを着ると外に行きたくなる、見せたくなるんですよね。
それで行ったことがない場所にも行ってみたり。場所が変わると出会う人も変わるんですよね。
出会う人が変わると自分自身の中身も変わる。こんなにも変わるんだって思って。
好きな服を着ることで自分らしくいられる、人前に出る勇気をくれます。
今では彼女は東京でアーティストの衣装デザインなどをしているそうです。
──ファッションはなくてはならないものものなんですね。
絵を描く時は必ず赤い服や帽子をかぶって、「あ、りんごちゃん!」って遠くからでも見つけてもらえるようにしています。
ちょっとデザイン的に言うと、認識してもらいやすく「イメージカラー」で彩るという工夫をしてます。
「りんごちゃん」のイメージに合う洋服を着ることによって、ファンに覚えてもらうことも多くなりましたよ。
もし地味な服を着てたら全然違いますね、赤い服を着てるのとでは(笑)
以前、陸前高田で似顔絵描きに行ったことがあって、赤い服は着てなかったけど「りんごちゃん」って名乗っていて。
そこから何年も立ってから、仙台のイベントで似顔絵を描いた時に、
ある親子が「覚えてます?今9歳になるんだけど当時4歳ぐらいで。」と。
陸前高田で似顔絵を描いた親子だったんです!!
「似顔絵屋さんで赤い服着てるから、もしかしてりんごちゃんかと思って!」って言われて(笑)
赤い服着ててよかったなって思いました。
「ファッション=自分を表現してくれるもの」ですね。
服はきっかけを繋げてくれるものでもある。
──似顔絵を描くときにもファッションを意識していますか?
最近意識してることは、似顔絵をもらった人が、後で見返した時に、「あ、このペンダント描いてる!」とか、
子供だったら着ていた服のアンパンマンを入れてあげたりとか。
大切な思い出のものだったり、それがきっかけでご機嫌になる子供がいたり、
持ち物の中にその人の好きな色が入ってたりするので、
絵を仕上げる時にその色を入れてあげたりとか…洋服をちゃんと描くとすごく喜んでもらえます。
自分のためにも人のためにも大事にしてることの一つですね。
──ファッションってその人の印象に与える影響が大きいですよね。
そうですね。なるべくオシャレでいたいです。オシャレな人に描いてほしいじゃないですか(笑)
こういう人に描いて欲しいな…という人に自分がなる。舞台に立ってるような感じです。
演じてはないけど、自分を引き締めてくれます。
──最後に、これまで色々な仕事をされてきたりんごさんですが、今後はどんなふうになっていきたいですか?
今までは「何屋さんですか?」って聞かれた時に、「似顔絵屋さん」って答えてたんです。
でもそれだと自分を表現する時に難しいなと思ったので、自分を表現するために「自分屋さん」って言ってます。
「自分屋さん」っていう仕事を作るために、いろんなことをしてる。
なので今後どうしたいというのはあまりないのですが、似顔絵屋さんに限らず何か必ず自分を表現するものをやっていくだろうと思っています。
どんな自分になるか、自分も楽しみにしてます(笑)
あと、いつもセンスを磨いていきたいです。何歳になっても誰かに憧れられる大人でありたい。
あの人みたいになりたいんですって言ってもらえたら本望です(笑)
インタビュー中も、こちらが自然と笑顔になってしまうような雰囲気でした。
インタビューしながらも、こちらのことを気にかけてくれたり「対ひと」を常に大事にしていることが伝わってきました。
この魅力がひとを惹きつけているのだと思います。これからの「自分屋さん」の活動も楽しみです!
インタビュアー:細谷大地・押野望佳・庄子采伽
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